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茶の湯の世界「湯相の逸話」

美味しいお茶を点てるには湯相が大切と聞いたけどどうしたら良いのか。

釜の湯相について知りたい!

良き湯相を知ることは美味しいお茶を点てる基本となります。美味しいお茶を点てる一助になることを願い、記していきます。

そして、これから北茶学園 茶の湯スクールKITASAの子供たちは茶の湯を深めていきます。その後に学びの助けとなるような湯相のお話をいたします。

茶の湯の世界では火の熾り具合を「火相」、湯の沸き具合「湯相」といい、とても気にかけます。

東京に表千家の流れを汲む茶道を普及させた、川上不白の記した「不白筆記 功不積用不妙」にも「火ハ能湯のわくか第一」とあり、火は良く湯が沸くようにするのが第一であるということを示しています。

茶の湯と書くほど、茶と湯を大切にします。

美味しいお茶の一歩は火相、湯相ともにかかっています。茶の原点ともいうべきものでもあります。

この火相、湯相に関しての逸話が「南方録・滅後269」に載っています。

原文を読み下していきます。

南方録・滅後 湯相の話

『利休先生を私の集雲庵にお招きして、お茶を差し上げることがありました。

ちょうど時期は梅雨時で風呂の構えでございました。

茶を茶碗に入れて、水指の蓋を取る段にまでなったのですが、私は以前から外気が冷ややかな時は、釜に水を一杓差すことは道理ではない、と思っておりましたので自分の考え通り、水を差すことなく湯を汲んで茶を点てたのです。

さて、茶の湯がすみますと、先生は私を陰に呼んで、さんざんにお叱りになりました。

「どうして水を差さなかったのですか、忘れたわけではない証拠に水指のふたを取っていたでありませんか。いよいよ納得のいかないことです。なぜ、水を差さねばならないのか。幸いまだ津田宗及、山岡宗無の大先達お二人が席においでになるのだから、行って尋ねてごらんなさい」とお厳しいお言葉でした。

そこで席に戻り、お二人に伺いますと、暑喜の甚だしい時とは違い、今日のような冷たい日には水指に差さないのも一理ある。

などとむしろ私を支持するかのようなお言葉でした。

私はご両人がお帰りになると、先生をお引止めして改めて教えを乞うたのです。

先生は話してくださいました。「両人は世に知られる茶人ではあるが、茶の深いところにまでは至っていないな。というのは、そもそもこの茶の湯の起こりは何か。と言えば、茶と湯が相応じてその均衡を程よく調和させることが第一という。その焦点が明示されているのです。

草庵の茶において初座では炭点前の下火の経過を推量し、後座では湯の沸き加減に応じて席入りするのを巧者の客といいます。また、その客に対して湯の沸き具合、炭火の熾り具合を客の思ったとおりにすることができるのを巧者の亭主というのです。

茶壺の封を開ける、口切の十月から正月二月までは、茶の香気が強く保たれていますが、普通三月の末から少しずつ香気がなくなり、四月になるといよいよ薄くなり、五月雨の季節には意外と思うほど衰えてしまいます。

ですから湯の煮え加減、五段階のうち口切には松風の湯相を用い、正月二月には、もっとも高い雷鳴というように、順々に変化させなさい。四月以降、茶の色香がともに衰えているのに、沸き立っている頂点の湯を入れれば、茶の香気はたちまち抜け、色も変わってしまいます。その頃にこそ夏の湯加減は熱湯に水を一杓汲み入れ、廻して煮音の落ちたところを茶碗に注げば、湯の状態は柔らかで茶の香気を損なわず対応できるのです。

夏に炉を用いた茶事についても同じことですが、台子のことになりますので、紹鴎は秘伝にしておきたいと申されました。炉で冬季の茶の湯の場合、払暁に汲んだ水を炉にかけ、沸かし、水を差し添えながらしておりますと、しだいに湯が練れてきます。その練れた湯が良いのです。夏場の茶は香気が衰えていますから、練れすぎた湯は重くて香味を奪ってしまいます。

それゆえ客の見える直前に新しい水から沸かして、それが初めて煮沸するところへ水を一杓加える、という心得でいたしますと、湯味は軽く茶の香気を発散させるのです。このように深い意味を持っているのに、暑気を散ずるために水を差すなどと思っているのは大きな心得違いであります」

ある時、利休邸に施薬院の別当であった医師全宗がお出になり、火相、湯相についてお尋ねがありました。利休がこの次第のあらましを申し上げますと、初めて納得され大いに感心されたのです。

そして、「医道の方にも寒飲熱用、熱飲寒用、と言うことがあるが、これは薬を煎じる時の火相を言うので、湯と薬の対応になっています。なるほど利休の茶は、ここまで洗練されているのですか、それならこの湯相の茶はたんに香味だけではなく、服用すれば不老長生の妙薬ともなるはずです」と褒められました。

なるほど湯相、火相ということが茶の原点であることを知りました。茶の湯という名は単純のようですが、じつは深い真理を秘めていたのです。それ以来この一点にかけて修行するようになりました』

南方録・滅後の理解のすすめ

※ 濃茶点前の時に水指の蓋を取り、一杓の水を差すのは昔も今も変わりません。水を差さないと判断したのであれば、蓋を取るのは納得できないことである。と蓋を取らずに濃茶点前を進めるのが良いと、利休も最初申しています。いらない点前はしてはいけないということです。

※ この頃の茶は風味よりも茶の色を大切にされていたとされています。永禄七年、真松斎春渓が記した「分類草木人」に「今の茶は、色を良くするために、茶葉を蒸す時間を短くしているので風味が悪い。昔は味の良さを重んじてよく蒸していたので、葉は鷹の爪のように細くなっていた。(当時の茶の色を奔走するに依りて、蒸をひかゆる͡故に風味悪し、昔は味を本とす、よく蒸す故に葉の形鷹の爪の如し)この話から分かるのは、茶人たちが茶の香味を少しでも良くするために、水の質や湯相、火相に気を使っていたのではないかということがわかります。

※ 薄茶、濃茶点前の際、釜の湯は底から、水指の水は上から、と言われたことがある人は多いと思います。それは水の中の不純物は下に沈むと考えられ、湯は底から沸くことから、不純物は浮くと考えられるからであります。そのため「湯は中水、底水から、水は上水から」となります。言葉での説明になりますが、水指や釜に湯杓を入れて持ち上げる際、少しの傾きを杓で持ちつつ、八分ほどを意識して水や湯を汲むと、水面張力により水に含まれていた不純物やチリなどは掃け、流されます。

※ 釜の湯音に関しては、唐の詩人でもあり、世界最初の茶に関する書「茶経」を記した陸羽の時代から知られています。陸羽は「泡が魚の目の大きさで、釜の中でかすかな音がするのを一沸(魚目)といい、釜の縁に珠を連ねたような泡があるのを二沸(湧泉連珠)、沸騰して波立状態を三沸(騰波鼓浪)と言いました。

※現在の釜の六つの音

魚眼 魚の目がずらりと起こるようなふつふつとした音

蚯音 ミミズが地中を這いずるような音

岸波 岸の波音

遠浪 遠くの波音

松風 松を吹き抜けるような音

無音 文字通り音の無い音

と分類されています。よく釜の音を聞いてみるのも楽しいはずです。

利休の申しました雷鳴と私は亀声を釜の音鳴りに入れたく思います。

雷鳴 雷太鼓の打つ音

亀声 亀がキュッ!と鳴くような高い音

雷鳴は正月二月の大きめの炉釜などから聞こえます。

亀声は私の持っている、好日釜。環付きが大亀の釜から聞けます。

良い火相 良き湯相 良きかな人相

佐々木宗芯

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